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眼病の際の罨法薬として、古くから家庭に
なじみ深い薬品である。子供の頃、眼を悪
く す る と 、 温 め た ホ ウ 酸 水 (硼 酸 水 )で 眼 を
洗っていたが、この方法を罨法というらし
い。後に粘膜からも吸収することが判明、
そのため、ホウ酸で眼を洗うことは無くな
ったのではないかと思われる。
そ の 他 に ビ タ ミ ン B
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の 溶 解 促 進 剤 と し て
用 い ら れ た こ と も あ り 、 工 業 的 に は ガラ
ス ・ 陶 磁 器 の 釉 (ウ ワ グ ス リ )・ ホ ウ ロ ウ の
原料・ニッケルめっき添加剤 ・銀塩写真の
現像液材料・塗料・顔料・皮なめしなどに
使われていた 。
単体ホウ素・ 酸 化 ホ ウ 素 ・ ホウ酸やその
塩 等のホ ウ 素 化 合 物 は ヒ ト や哺乳動物にと
っては食塩と同程度に無毒である。
哺乳動 物 に 対 す る 半 数 致 死 量 (D
50
) は体
重 1kg当たりおよそ6gであり、LD
50
が体重
1kg当たり2g以上の 物 質 は 一 般 に 無 毒 で あ
るとされている。ヒトに対する最小致死量
ははっきりせず、事件を除く1日 4gのホウ酸
の摂取は報告されているが、それを超える
量の摂取では有毒であると考えられている。
ホ ウ 酸 の 防 腐 力 は 比 較 的 弱 く 1~ 3%の濃厚
な 水溶液 で あ っ て も 多 く は 細 菌 の 増 殖 を 抑
止するに過ぎない。 た だ し 、 糸状菌はホウ
酸 に 対 し て 抵 抗 力 が 弱 い 。 脾 脱 疽 菌 は
0.13% の 溶 液 で そ の 増 殖 が 抑 制 さ れ る が 、
4% 液に24時間放置しても死滅しない。
50日 間 継 続 し て 1日 0.5g以上のホウ酸を
摂取すると下痢など消化器系に障害が発生
する。中 性 子 捕 捉 療 法 の た め に 行 わ れ る ホ
ウ酸20gの 単 回 投 与 で は 、 著 し い 他 の 毒 性
が生じることなく使用されている。
魚類は飽和ホウ酸溶液中で30分間生存す
ることができ、ホウ酸ナトリウム溶液中で
はより長く生存できる。ホウ酸は、昆虫に
対しては他の生物より毒性が強く、ゴキブ
リ等の殺虫剤として利用されている。
ボランのような水素化ホウ素やそれに類
似したガス状の化合物は毒性が顕著であり、
その毒性は化学構造に起因する。
ボランは可燃性かつ有毒であるため、取
り扱いには特別な操作が必要となる。
水素化ホウ素ナトリウムは強い還元性を
持つ物質であるため、水・ 酸 ・ 酸化剤など
と反応して火災や爆発を起こす危険性があ
る。ハロゲン化ホウ素は腐食性を有する。
ホウ酸の毒性は、そ の 限 界 量 が ま ち ま ち
で 、 日本薬局法註解によると、 ホウ酸の致
死量は、大人は約20g・幼児は約5gで 、症状
は服用後2~ 3時間で嘔吐・ 下痢を起こし、
虚脱となり、 紅斑を生じ 3~ 5日後に死亡す
る 。
ホウ酸の致死量は、 成人で 15~ 30g・小
児は3~6gで 、消化管からの吸収はすみやか
であり、 皮膚(軟膏類)からもわずかは 吸収
する。
経口中毒症状としては腹痛・ 嘔吐・ 脈搏
微弱があり、 最 後 に は 衰 弱 し て 意 識 喪失に
なる。顔 面 蒼白になったりチアノーゼ(青色
症 )になることもある。
経口的にホウ酸やホウ砂を摂ったアメリ
カでの中毒例では、86人の患者のうち42人
が死亡して 48.8% の 致 死 率 に 相 当 する。全
中毒例の43% は 1才以下の幼児で、全死亡者
中の45.2% は 幼 児 で あ っ た 。 また、 ホウ酸
軟膏による火傷の治療で も 4例の中毒例が 、
さらにホウ酸水による傷口の灌注で3例の
死亡例があった。
生後9か 月 の 幼 女 が ホ ウ 酸 中 毒 で 死 亡 し
た際の解剖的所見では、 大量のホウ酸が
脳 ・ 肝臓・ 腎臓・ 心臓・ 胸腺・ 筋肉・ 体脂
肪 ・ 全血液・ 血 漿 に 見 ら れ た 。 しかもこの
患者は、 お し め が む れ て で き た 発 疹 の 治 療
のために、 亜鉛華軟膏と 粉末ホウ酸を家庭