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ホウ素とその化合物(2)
音羽通信 2019.5 月号
循環資源研究所 村田徳治
ホウ素とその化合物(2)
ホウ素(B)
H
3
BO
3
)・ (Na
2
B
4
O
7
-4H
2
O)・ホ
ウ砂(Na
2
B
4
O
7
-10H
2
O
て存在し 0.0003%と
自然 のホウ素は
物であり
い。
天然水中の存在量は海水中に4 5mg/l
淡水中に0.1 0.2mg/l程度である。
ホウ
ホウ 融点2000 2500 沸点
2550℃といわれている。融点が高く 液体
の反応性が高いため 高純度ホウ素の
は極めて困難である。
ホウ素化合物としては、ホウ -水素化合
ホウ ホウ 硫黄化
合物ホウ -
ている。 (NaBH
4
)
有機薬品の合成や排水中の重金属イオ
ン還元などに使用される。
ホウ酸(H
3
BO
3
) 解離
定数は小さい。
H
3
BO
3
+H
2
O B(OH)
4
H
K 5.9×10
10
ホウ酸はフッ トリ
フルオロヒドロキシホウ酸(HBF
3
OH)にな
らにゆっくりとテトラフルオロホウ酸
(HBF
4
)に変化する。
H
3
BO
3
3HF HBF
3
OH 2H
2
O
HBF
3
OH HF HBF
4
H
2
O
ホウ酸の
ホウ素の高い中性子捕獲能力を利用して、
原子炉の核分裂で生成する熱中性子への
収剤として利用されることがある。この場
合、ホウ酸の水溶性を利用することが多く、
ホウ酸水の場合は冷却材も兼ねる。なお、
放射性核種の原子核崩壊は熱中性子がなく
ても自発的に起こるものであるため、この
場合は吸収剤としてのホウ素は役に立たな
い。従って、崩壊熱で原子炉が高温となる
その他、化合物の合成触媒にも使われる。
硼砂(ホウ )
琺瑯()釉薬()
ホウ (硼砂Na
2
B
4
O
7
-10H
2
O)には、その
ものの特性を利用した様々な用途がある。
ホウ砂はホウロウ
陶磁器の釉薬 用いられてい
る。
ガラス工業においても耐熱ガラスや光学
ガラスの主要原料であり 接のフラ
皮なめしなどにも使用されている。
硼砂は350 400
878 で融解して無色
透明のガラス状になる。これは多くの金属
酸化物を融解する性質を持つため、融剤と
して使われる。
(のみ) など日
本の刃物は、切れ味に優れ、世界中の注目
を集めている。それはしなやかな軟鉄に硬
(鋼鉄)
鍛造技術によって製造されているからであ
る。軟鉄と鋼鉄を貼り合せる時に融剤とし
て使うのが硼砂である。鉄素地の表面につ
いている錆を硼砂が熔融し、鍛造の過程で
外部へ押し出す役目を果たしている。
2
硼砂の熔融
を呈するため、陶芸用の釉薬融解剤として
使われる。
融剤
酸や水に 中和や塩の交換
反応により、
る薬剤を融剤と呼ぶ。
用途に応じて色々な物質が用いられる。
融剤が溶解を促進する作用は化学反応や塩
の交換反応に基づいて液相を形成する場合
が多い。また、セラミックスの焼結反応や
結晶化を促進する目的や、単結晶を得やす
くするために添加される薬剤は 多成分系
の融点降下により熔融しやすくする。
乾式製錬で融剤が反応して生成するスラ
グは融解を促進する作用以外に、表面に浮
かぶことで大気を遮蔽したり、不純物を取
り込むなど精錬度を向上させる作用も併せ
持っている。
各種鉱石中の母岩由来の岩石成分は、金
属製錬では不要物であり、できるだけ事前
に除去するための選鉱が必要である。多く
の場合、高温での精錬過程に入る前の選鉱
完全に除去するのは困難である。除去
し切れなかったものは、精錬過程の段階で
生成した金属から除去するのが現実的であ
り、その際ある程度の高温で融けて流動す
ることが必要である。生成した金属は比重
が大きいので沈み、浮き上がった鉱滓を流
出させて除去する。岩石中の主たる成分は
SiO
2
酸塩鉱物である。ケイ酸は2000 の高温で
融解しても、
4
合手を持つ酸素原子と結合し、共有結合に
よる三次元網目状になっているからである。
そのため、ケイ素原子と結びつく酸素原子
1
置き換えたり、酸素原子と結びつくケイ素
原子の一部でも金属イオンと結びつけるこ
とができれば、それだけで網目構造はかな
り不完全なものになる。
古来融剤として蛍石( フッ化
カルシウムCaF
2
)が用いられてきた。
鉱石を還元剤とともに加熱し、還元する
過程で同時に蛍石を投入すると、不要部分
fluorineと言う元素名が付与された。
その後、多くの鉱物が融剤としての効果
を認められ、現在に至っている。
製鉄では、ケイ酸の除去のために、ケイ
CaSiO
3
なる石灰石を融剤に使っている。
CaCO
3
+ SiO
2
CaSiO
3
+ CO
2
銅製錬では、鉄分の除去のために、鉄と
結合してケイ酸鉄になるケイ酸とケイ酸と
結合してケイ酸カルシウムになる石灰石を
融剤に使って
イ酸カルシウムに融け込みやすいことを利
用している。ケイ酸がカルシウムと結合し
やすいのは、ケイ酸は酸性酸化物であり、
石灰石が分解して生じる酸化カルシウムは
塩基性酸化物であるので、塩を作りやすい
2
次元高分子のイオンであり、ある程度の高
(700 )
岩石成分の除去のためではないが、アル
ミニウムの電解製錬(ホウ )は、
酸化アルミニウムの融点が非常に高く、単
独では融解しがたいのを、氷晶石に酸化ア
ルミニウムが融けこみやすいことを利用し、
800 前後まで融解点を下げることで、電解
精錬が可能になった。
3
これも酸化アルミニウムの共有結合性の
高い3 1
いフッ素原子が入り込むことによる。この
融剤がケイ酸の熔融性を増し、粘性を下げ
る現象は窯業においても不可欠なものとな
っている。
ガラスは
の堆積物であるケイ砂に融剤を加えて溶融
し、さらに望みの性質を実現するための添
加剤を付加して製造する
陶器や磁器のような高温で一部が溶融す
る過程を経る製品は、原材料として融剤の
性質を有する成分を必須とする。
( )
る草木灰や食塩をそのままかけて表面を熔
もあるが
現在はケイ酸やケイ酸塩と融剤の混合物を
主成分として配合されたものが用いられて
いる。
塩基性の金属酸化物に対しては硫酸水素
ナトリウムなど 、ケイ酸塩に対
して ホウ酸リチウム
等が利用されている。
金属を接合するときはその表面の酸化物
等を除去して接合材である金属ろうでよく
ぬれるようにしなければならない。そのた
めに、ろう付けではホウ砂を塗りつけ酸化
物をガラス状にして したり、はんだ付け
では塩化亜鉛飽和水溶液を塗りつけて酸化
物を溶解したりする。弱電関係では松脂を
用いることもあり、 ハンダの中
松脂をいれた糸ハンダも発売されている。
目的物と反応せず且つ目的物と分離が容
易な融剤を用いて熔融液を生成し、その中
で合成や単結晶生成を行う方法を融剤法
(フラックス法flux method)と呼ぶ。
融剤としてPbO-PbF
2
KCl-NaCl 等が用
いられる。生成物を得るには鉛の様に融剤
を気化蒸発させたり、冷時融剤中に生成し
た単結晶を水に溶かして除去するなどの処
理をする
成・単結晶化に利用されている。
融剤として用いられる硼砂の水溶液は弱
アルカリ性であり
るため洗剤や防腐剤などに使われる。また、
銀塩写真の現像液にアルカリ調整剤として
添加される。
アメリカテキサスA&M 大学のジョセ
フ・ナジバリー((Joseph Nagyvary)教授の
研究により、ヴァイオリンの名器であるス
トラディバリウスのトップから、硼砂が検
出された。製作当時、ホウ砂はワニスの防
腐剤として使われていたことが明らかにな
っており、それが名器の音の秘密ではない
かという研究結果が、同教授によって提唱
されている。
硼砂は毒性が食塩よりも弱く、アリ・
られるホウ
ホウ
( )
ホウ 19
の化学者フリードリッヒ・オットー・ショ
ットによって開発され、1893年に デュラ
ン」のブランド名で販売されたのが最初で
ある。
1915
ックスを売り出すと、英語圏では耐熱ガラ
スがパイレックスの
も家庭用品に関して言えば、パイレックス
ブランドの欧州製品はホウケイ酸ガラスを
使用しているものの、アメリカ製品はソー
4
ダ石灰ガラスを用いている。
ホウケイ酸ガラスとは、通常のガラス原
料に硼砂を混ぜて熔融し、軟化する温度や
硬度を高めたガラスである。耐熱ガラス・
硬質ガラスとして代表的な存在である。
熱膨張率が低く、そのため一般のガラス
に比べて熱衝撃に強く、耐熱性・耐薬品性
に優れていることから、理化学器具や台所
用品(鍋のふた)
ホウ素の原子は小さいため、通常のガラ
スより密度が低い。ホウケイ酸ガラス
3分の1程度
である。
そのため温度差に起因する熱応力が減少
し、熱衝撃に強くなっている。急激に、あ
るいは不均一に加熱すれば割れるが、粉々
にはなりにくい。光学的には色分散が小さ
く、屈折率が低い。通常は無色であるが、
ガラス工芸用の着色したものも存在する。
SiO
2
・ソー
ダ灰Na
2
CO
3
CaCO
3
に加えてホウ
を用いる。実験器具に使われている低膨張
率のホウケイ酸ガラスの組成は、およそ
80%の二酸化ケイ素・13%の酸化ホウ素・
4%の酸化ナトリウム2 3%の酸化アルミ
ニウムで示される。融点が高いことから、
熔接業で用いられるようなガスバーナーが
必要である。
現在、ほぼ全ての実験用ガラス器具が
ホウ
である。
ホウ
ホウ
ホウ ホウ
使
が望ましい。
反射望遠鏡の鏡に 用いられている。
Nd
2
Fe
14
B
ネオジム磁石( :Neodymium magnet)
は、ネオジム ホウ素を主成分とする
( ) 永久
磁石のうちでは最も強力とされている。
1984
及び日本の住友特殊金属( :日立金属)の佐
川眞人らによって発明された。
一時、誤って
人もいたが、ネオジムはドイツ語・英語で
はネオジミウムであり、ネオジウムという
元素はない。
特徴
N24 からN54まで(理論上
N64まで)の等級付けがされる。Nの後の数
字は磁気の強さを表している。ネオジム磁
石は磁束密度が高く、非常に強い磁力があ
。強力な磁石であるが欠点もある。機械
的に壊れやすいほか、加熱すると熱減磁を
生じやすい。キュリー温度は約315℃。
対策として、ジスプロシウムを添加し保
磁力を向上させる手法が存在する。1 のジ
スプロシウムの添加で熱減磁が15℃改善す
るといわれている。
く、製品として用いられる際にはニッケル
等でめっきして用いる。
小型のネオジム磁石
ライブCDプレーヤー携帯電話などに使
われている
ハードディスクドライブでは、ヘッドと
呼ばれる読み書きする装置を移動させるた
めのアクチュエータに用いられる。
5
ヘッドフォンのドライバーにネオジム磁
石を用いると、 採用可
となり、 サイズを
小さくしても強磁界が得られるので、小型
のインナーイヤー型・カナル型ヘッドフォ
ンには欠かせない磁石となっている。
述のジスプロシウムは特に希少な資源
であるため、最近ではジスプロシウムを使
わずに、ネオジム磁石の結晶粒径を小さく
することにより、熱減磁を改善する研究が
行われている。しかし、ネオジムは酸素と
の反応性が強く、磁石の結晶粒を小さくす
ると、空気と触れる表面積が増えるため、
自然発火することがある。このため、磁石
製造は酸素の無い状態で行う必要がある。
cm 10kgf
あるため、扱う際には指を挟まないよう手
袋をするなどの注意が必要 ある。
大型の
車・ハイブリッドカー・エレベーター駆動
用の永久磁石同期電動機の界磁などに用い
られている。
2014 10月、TDKはネオジムの含有量を
従来の半分に低下させた磁石の開発に成功
したという
スライムは、アメリカの作家ドクター・
スースの童話『ふしぎなウーベタベタ』
(1949 )
ろどろの物体にちなんで付けられた。
木工用ボンド(酢酸ビニル樹脂エマルジ
)
えて作られたものはグラーチとも呼ばれ、
教材や玩具として造られた。
スライムは本来、ある種の性状を持った
物質( )
っぱに指す言葉であった。従って粘土や泥
などの無機物から、生物の分泌する粘液な
どの有機物、またそれらの複合体など実に
様々なものがスライムと呼ばれる。
有機物ポリマーを架橋しゲル化する反応
を利用し、理科の実験や自由研究などでス
ライムを造るときにホウ よく用いる。
アメリカでは玩具メーカーのマテルによ
り、1976年に1979
年の1977年だけで約1000万個が売れた。
日本では1978
テル社製玩具のスライム状の物質を日本で
発売し、同年の報告によれば小学生を中心
250
での反応はよくなかったが、発表会の報道
10 !うわさのチャンネ
!! 使
原料の大部分が水であるため、日本での大
ブーム時にはツクダが製造に大量の水を必
要としたことで、水道局からクレームが来
たという逸
コルマという化粧品メーカーが担当したが、
ブームによりコルマで使用する水が不足し、
スライム専用の水道管を増設したという。
この「スライム」は小さなポリバケツを模
した容器に収められた、緑色の半固形の物
体で、手にべとつかない程度の適度な粘性
と冷たく湿った感触がある。触って遊ぶた
めだけの玩具であったが、それまでにない
新鮮な感覚をもたらしたため大ヒットし、
後に様々な類似商品も生まれた。
そもそもは第二次世界大戦の時にゴムの
産地を日本軍に占拠され、ゴム不足となっ
たアメリカで、人工的にゴムを作ろうとし
て生まれた物であった。また、アメリカで
樹脂から化粧品を製造しようとした過程で
造られたとの説もある。
6
PVA ホウ
イム
ポリビニルアルコールは合成糊や洗濯糊
の主成分であり、直鎖状の高分子である。
これがホウ
ゲル化する。
ホウ砂は薬局などで入手できる。
ホウ砂の 4 水溶液を造る。
これを主成分が PVA の洗濯糊(10%
溶液)と水を 2:3 PVA
4%水溶液を造る。このとき、冷水
使
まくいきやすい。
撹拌しながら、 の水溶液を少しずつ
混ぜる(容積比10:1程度)。
べとつかなくなるまでよくこねる。
ホウ酸とその塩は、
土類金属と反応して難溶性塩を生じないた
廃水処理で多用される凝集沈殿処理が
困難な物質である。
現状では処理方式も限られるが 希土類
金属との難溶性塩形成を利用する方法が報
告されるなど
ている。
(1) 殿
各種凝集処理が検討されたが アルミニ
ウム塩と水酸化カルシウムCa(OH)
2
の併用
法以外にはほとんどホウ酸除去効果がなく
凝集pH pH9
pH
Ca(AlO
2
)
2
吸着して除去
されるものと考えられている。
フッ素と結合し ホウ酸となっ
ホウ酸塩は通常の凝集沈殿で除去できず
イオン交換処理で除去し 濃縮した再生廃
液にカルシウム塩を加えて 熱分解する方
法が報告されている。
(2)
通常のイオン交換樹脂は、ホウ酸イオン
の選択順位が低いため実用的ではない。
現在 、ホウ酸イオ
選択吸着樹脂である。
この樹脂はⅣ-メチルグルカミン形イオ
ン交換樹脂で 水酸化
ナトリウムでOH 使
通水pH 、ホウ 1mg/l
以下に処理できる特徴がある。
市販されている 吸着樹脂を
1に示す。
なお
液は凝集沈殿処理が適しており
凝集沈殿処理とイオン交換処理を組み合
わせる必要がある。
1
引用・参考文献
1) )冨安行雄 榎本則行 食品衛生学会誌 Vol.4.
No.5 10/1963
2)
環境コミュニケイションス 2001 10
3) 村田徳治 増補改訂廃棄物のやさしい化学第
2 日報出版 2004 9
4) 村田徳治 月刊廃棄物 載記事 日報ビ
ネス